ウスケバ・ロゴ ウスケバ・ロゴ ウイスキー造りに欠かすことの出来ない「水」そして「樹」。自然の力が生み出す「生命の水」。

2010年01月29日

真 相

 1月18日、ロバート・B・パーカーが他界しました。享年77歳、執筆中の急逝だったそうです。
 老いてますます執筆のペースが上がっていただけに、まったく予期しておらず、突然の訃報にかなりショックを受けています。「これまで散々に嫌味を言ってきたけれど、本心ではスペンサーもホークもスーザンもパールも愛していたんですっ」と、頬を朱に染めつつカミングアウトします。
 未読の作品は、昨年末に刊行されたばかりの「プロフェッショナル」と、未訳の Painted Ladies の2作のみ。時間をかけて楽しむことにしましょう。

 というわけで、今回は追悼の気持ちをこめて、シリーズ第30作の「真相」を取り上げます。





















 母を殺した犯人たちを見つけてもらいたいの-迷宮入りになった28年前の銀行強盗事件で犯行グループに射殺された被害者の娘が、真剣な面持ちでスペンサーに訴えかけた。警察の捜査報告書によれば反体制の革命グループが犯行声明を出していたが、その正体は不明のままだった。やがて政府の秘密機関員だと名乗る男が、スペンサーのもとに忠告に現われた。事件の調査から手を退いたほうが身のためだというのだ。それは、彼がさらなる情報を求めてFBIの支局を訪れた直後のことだった。その後、ガンマンが銃をちらつかせながら、事件に関わらないようにとスペンサーに脅しをかけてくる。28年前の強盗事件の裏に、どんな秘密が隠されているというのか? 関係者の多くが口を閉ざすなか、スペンサーが突き止めた苦い真相とは……

カヴァーあらすじより

 ふ~ん、あらそう、と、相変わらずカタルシスの欠片も感じられない一作です。しかし、ホークとの軽口の応酬、スーザンへの偏愛など、様式美にまで昇華された予定調和の語り口は、決してファンの期待を裏切りません。
 始まりの舞台はお馴染みのタフト大学ですし、リタ・フィオーレ、ロスアンジェルス市警のサミュエルソン警部ら懐かしい顔触れがカメオで顔を覘かせ、駄犬も生き返り、さらになんと、別シリーズのジェッシイ・ストーンまでクロスオーヴァーさせるという、サービス満点、お腹も満腹の展開です。どうせなら、ついでにサニー・ランドルも登場させたらよかったのに。

 やっぱり、ぜんぜん誉めてないやん。

「ダリルの母親を誰が殺したか、おれが調べ出すことが、お前にとってどれくらいの意味があるのだ?」
 私たちは、ブロード通りから外れた路地の奥にある<ホリイズ>という酒場でアイリッシュ・ウイスキイを飲んでいた。そこはかつて私が若かった頃、ボクシングの試合の合間に二ヶ月ほど用心棒をやっていた店だ。店の様子は変わっていなくて、働いていた頃の知り合いが今は一人もいないにもかかわらず、私はいまだにその店に行くのが好きだった。


 スペンサーがポール・ジャコミンとウイスキーを酌み交わしている場面です。

 ポールはアイリッシュ・ウイスキイを軽く一口飲んだ。グラスをちょっと持ち上げてカウンターの奥の光に当て、氷とウイスキイを眺めていた。
「いい酒だ」彼が言った。
「男同士の気持ちを結び付けるのに最高の酒だ」
「ぼくたちは今そうしているのかな?」
「その通り」
 彼が肯いた。そのバアは細長く、天井はブリキ張りで、歳月で黒ずんだ木で小さな枠が仕切ってある。カウンターの奥の鏡の前に並べてあるボトルが、薄暗い部屋の中でかげろうのように光っている。


「拡がる環」では、無理してマーフィーズを口にしていたポールも、アイリッシュ・ウイスキーの味が分かるようになって、めでたく一人前の大人ですな。

 二人が飲んでいるアイリッシュ・ウイスキーについてですが、おそらく、ブッシュミルズのオリジナルかジェイムソンだと思います。なんとなくだけれど、アメリカの庶民的なバーに置いてある銘柄はそれぐらいでしょうから。

 ともあれ、罵る相手がいなくなるのは寂しいですよね。人生をちょっとだけ豊かにしてくれた作家に感謝しながらも、これからも遠慮なく貶し続けるつもりです。

シリーズ・リスト  

2009年06月09日

オールド・ディック



















 ちょっと走れば息切れして死神の顔が見えてくるし、十五年も仕事にはごぶさた-こんな老いぼれ探偵ジェイクになぜか仕事が舞い込んだ。元ギャングのサルが、誘拐された孫の身代金受渡しに同行してくれというのだ。だが、ご老体二人は何者かに殴られて金を奪われてしまった。その上、サルが急に姿を消した。友人たちは、彼が二年前に死んでいるはずだという。事件は、ジェイクが予想もしなかった方向へ……
裏表紙ストーリー紹介より

 私立探偵の老後を描いた異色のハードボイルド小説で、MWA賞を受賞し、日本でも「マルタの鷹協会」のファルコン賞に輝きました。

 若いころはタフで有能な私立探偵として鳴らしたジェイク・スパナーも、78歳になったいま、すっかり身体は錆びつき、しがない探偵稼業で蓄えがあるはずもなく、貧乏で無聊をかこつ日々を送っています。
 年齢といい、ロスアンジェルスが舞台といい、もし、フィリップ・マーロウが、「プードル・スプリング物語」以降、リンダ・ローリングと別れて独りで齢を重ねていたら、似たような暮らしぶりだっただろうと思わせる、マーロウのファンにとってはちょっと寂しい、滑稽でいて哀愁の漂う秀作です。

 それに比べてロバート・B・パーカーのスペンサーは、同じ年代なのに相変わらず腕力にものをいわせているし、クワークとベルソンのコンビにしても、ボストン市警は有能なはずの彼らを昇進もさせず、いったい、いつまで働かせるつもりなのでしょうね。

「おまえはまったく変わっていないんだな、ジェイク・スパナー? クソ! 四十年前も、おまえはまったく同じことをいい、自分、もしくはくだらん依頼人どものいざこざを解決するためにおれから警察部内の情報をひきだそうとしていやがった。いつも、救いの神みたいにこのオブライエンのところに駆けこんできたっけ」
 わたしは肩をすくめたが、それにはなにもこたえなかった。彼とのつきあいは長かったから、このようにどなりちらし罵るのはすでに手を貸すと決意しているということはわかっていた。もし興味がなければ、はっきりとそういい、すべては終りだった。四十年前と少しも変わってはいない。
「そして今度は、おれが警察内部の人間とちょっとしたつながりがあるという事実を利用したいってわけか? その人間がおれに対してもっているだろうと思われるわずかの好意を利用して、そいつに警察の規定を破らせ、その立場や将来まで危うくなるようなことをさせようというんだな? オブライエン一族は末代までクソ忌々しいジェイク・スパナーにふりかかった火の粉をはらってやる義務を負ってるってわけか?」いい終えて、彼はこれだけの長いせりふを一気にいうだけの息がのこっていたことに少し驚いている表情になった。
 もう一度、わたしは肩をすくめた。そして、こういった。「それで?」
「なんだと?」
「もっとほかにいいたいことがあるはずだ」
 彼の眼が光った。「あるとも」そして、深く息を吸いこんだ。「それで、おまえは半パイントのウィスキーの手みやげでおれがその頼みを聞くはずだと思ってるんだな? そうなんだろう?」
「まあ、そんなところかな」
「いいか、はっきりいっとくぞ、ジェイク・スパナー。おれはたしかに老いぼれで、動作が鈍く、病気で、頭もおかしくなっているかもしれんが、そんなに安く買収されたりはしない。冗談じゃない。おれの品位を犠牲にし、いやな気分に耐え、警部補の地位を危険にさらすのなら、少なくとももう一びん要求する権利がある」
 わたしは溜め息をついた。「わかったよ」
「それも、今度はもっといいウィスキーだぞ」彼はほとんど空になったびんをつかんだ手をいっぱいにのばし、眼を細めてラベルを見つめた。「アイリッシュ・ウィスキーに<レヴィズ・セレクト>とはどういうことなんだ?」
「酒屋の商標さ。名前なんか問題じゃないだろう」
「いったん飲んじまえばな。このつぎはもっといいのにしてくれ-少なくとも、アイルランド人の酒屋のつくっているやつだ。<レヴィズ・セレクト>だと! なんてこった!」


 アメリカでは、酒屋やスーパーが販売している安価なオリジナル・ブランドのウイスキーがそれなりのシェアを占めており、一部は日本にも輸入されています。



















 バーボンだとこんな銘柄も出回っていました。本国ではブラック・イーグルという姉妹品も発売されているそうです。