2008年12月08日
ボーン・コレクター

モルト・ウイスキーが好きなミステリーの有名人に、元ニューヨーク市警、科学捜査本部長のリンカーン・ライムがいます。
しかし、彼はひとりでウイスキーを飲むことができません。勤務中に事故に巻きこまれて脊髄を損傷し、自らの意思で動かせるのは頭部と左手の薬指だけなのです。
ライムはときおり目を閉じてゲームをした。寝室内の品物一つ一つの匂いを嗅ぎ分けるゲーム。数千冊に上る本や雑誌、ピサの斜塔のように傾いた書類のコピーの山、熱せられたTVのトランジスター、霜のように埃をまとった電球、コルクの掲示板。ビニール、漂白剤、ラテックス、布。
三種類のシングル・モルト・スコッチ。
ハヤブサの糞。
デンゼル・ワシントンの主演で大ヒットした映画をご覧になったかたは多いと思いますが、ジェフリー・ディーヴァーの原作も、1999年の「このミス」で第2位を獲得するなど、日本のミステリー・シーンを席巻しました。究極の安楽椅子探偵の登場は、たしかにセンセーショナルでした。
主人公や犯人の造形だけに頼らない長けた筆致で、サイコ・キラーとの鬼気迫る対決のあとのにやりとさせるエンディングまで、緩急をつけつつ一気に読ませます。
ライムは指示を与えながら化粧台の上のスコッチにちらりと目をやった。バーガーが三つ道具の一つとして持参したブランデーを思い出す。あんな安物でこの世を去るつもりにはとてもなれない。フィナーレを華々しく飾るのは、ラガヴリンの十六年ものか、五十年熟成のマカランにしよう。または-この際だ-その両方で。
人生に悲観したライムは、捜査の指揮をとる合間にも自殺ばかりを考えていて、毒薬を混ぜたウイスキーを飲むことで望みを果たそうとします。
そのウイスキーがラガヴーリンの16年かマッカランの50年とは、アメリカ人にしては珍しく舌が肥えていますね。
マッカランの50年なんて、ボトルすら見たおぼえのないぼくが意見するのもなんですけれど。
末期の酒に選ぶとしたら、皆さんはどんなウイスキーがいいですか。最後に刺激を求めるならアイラのカスクでしょうか。それとも、心穏やかに迎えたいのなら3回蒸留のローランド・モルトでしょうか。
ぼくはいつも飲んでいるウイスキーで十分です。だって、あまり上物のウイスキーにしたら、飲み切れないと未練が残って成仏できそうにないですもの。
貧乏性は死んでも治りそうにありません。

シリーズ・リスト
「ボーン・コレクター」 文藝春秋 1999
「コフィン・ダンサー」 文藝春秋 2000
「エンプティー・チェア」 文藝春秋 2001
「石の猿」 文藝春秋 2003
「魔術師 イリュージョニスト」 文藝春秋 2006
「12番目のカード」 文藝春秋 2006
「ウォッチメーカー」 文藝春秋 2007



