ウスケバ・ロゴ ウスケバ・ロゴ ウイスキー造りに欠かすことの出来ない「水」そして「樹」。自然の力が生み出す「生命の水」。

2009年05月13日

プレイメイツ




















 ワスプの弁護士ヴィンス・ハラーを介して、タフト大学当局がスペンサーに依頼をしてきた。タフトは全米大学バスケットボール・リーグの有力校なのだが、最近、試合には勝っても故意に得点を減らしている、という噂が校内で流れている。その噂の出所をたどって真偽を確かめ、この一件に決着をつけてほしい、と。
 大学に出入りし、聞込み調査を続けるうちにスペンサーは、最強のパワー・フォワードといわれる黒人選手ドウェインが巧妙に得点操作をしていることに気づく。輝かしい将来が約束されたスター選手なのに、なぜそんなことをするのか? もし発覚すれば、経歴に傷がつくだけではないか。背後に何かあるのか? 大学内部の人間や選手たちが調査に非協力的であるにもかかわらず、スペンサーは何としても真相をつきとめたかった!
見返しストーリー紹介より

 またしてもロバート・B・パーカーのスペンサー・シリーズです。いろいろな意味で話題に事欠かないシリーズですな。

 16作目の本作は、パーカーが得意とする大学とスポーツ界を舞台にしているだけに、スペンサーものという色眼鏡で見ても、かなり出来のいいミステリーです。とはいえ、相変わらず事件の処しかたは甘いし、前作の「真紅の歓び」がひどかったので、たんに比較の問題なのかもしれませんが。

 私が彼の向かい側に滑り込んだ時、ちょうどレニイは慎重にビール・グラスを口の方へ傾けかけているところだった。グラスを親指と最初の二本の指で持っていた。薬指と小指は伸ばしている。ほんの少し飲んでグラスを置いた。
「スペンサー」と言うと、バーテンに合図した。
「レニイ、明日の時代に入っているな」私が言った。
 バーテンがウィスキイのワン・ショットと分厚く丈の高いグラスに入った生ビールを運んで来た。私はショット・グラス入りのウィスキイは大嫌いなのだが、会うたびにレニイが私に注文してくれる。長年の間に中身の格が上がっている。今は少なくともアイリッシュ・ウィスキイだ。初めて彼を知った頃はオールド・トムソンだった。


 さて、スペンサーは、バスケットボールのゲームで不正が行われているかどうかについて、ノミ屋のレニイ・セルツァに助言を求めます。

 セルツァは、おもなキャラクターのなかでは、スペンサーのいちばん古い知り合いでしょう。第3作の「失投」と第23作の「チャンス」にも登場して、いつも居座っているバーで、スペンサーのためにウイスキーとビールを注文するのが決めごとになっています。
 そして、スペンサーが若いころにセルツァに奢ってもらっていたウイスキーが、オールド・トムソン、オールド・トンプソンです。
















「こんばんは、レニイ」私が言った。
「つまらない事でも胸が疼く場合があるよ、スペンサー。そんな思いをした事があるか? いいかね、わしはこれまで≪レコード・アメリカン≫を読んでいたんだ、そうだろう? こぢんまりしたタブロイド版で扱いやすかった。ところが、会社が≪ヘラルド≫を買収して大判に変えたために、今はまるで道路地図を広げて見ている感じだ。こいつをきちんとたたむのが大変で、ほんとに情けないよ。そんな事で思い悩んだ事ないか?」
「仕事の暇なときに」
「一杯飲むか?」
「そうだな、ブランディ・アリグザンダーをもらおうか」
 セルツァが笑った。「ヘイ、フランク」バーテンに向かって指を一本立てた。「ショットとビール、いいな?」
 バーテンが持って来て、ビールを小さなペイパー・コースターの上に置くと、バアの向こう側へ戻った。私はウィスキイを呷った。
「とにかく、腹に寄生虫がいたら、今のでみんな死んだな」
「そう、フランクはウィスキイをさほど寝かしておかないからな」


「失投」では、うえのやりとりのほかに、「あの一杯で、前歯の琺瑯質が剥げたよ」と毒づいて、セルツァに、「二十年前、お前さんがアリーナで前座試合をやってた頃は、あれをフランスからの輸入品だと思ってたのを、覚えているよ」とやり返されています。
 ただ、「ペイパー・ドール」と「突然の災禍」でもオールド・トンプソンにしつこくふれていて、貶しながらも、スペンサー、つまり、パーカーにとっては思い出深いウイスキーみたいですね。
















 私はサウス・エンドのバッキイという店でリー・ファレルと落ち合った。入って行くと、彼は一人でカウンターに座っていた。前に半分飲んだ生ビールと空のショット・グラスがある。私は腰掛けにのってショット・グラスを見た。
「オールド・トンプソン?」
「フォア・ロゥジズだ」彼が言った。「それで何か文句があるのか?」
「ノスタルジアだ。おれの若い頃はクロフトエイルにオールド・トンプソンをワン・ショットだった」

















 二杯目のビールが届いた。一緒に飲むのにオールド・トンプソンのダブル・ショットを頼もうかと思ったが、この危機に素面で対処するほうが男らしい、と判断した。ビールを一口飲んだ。





















 オールド・トンプソンは、バーボンに70パーセントのニュートラル・スピリッツをブレンドした4年もののアメリカン・ブレンディッドで、ジョージア州オルバニーのヴァイキング蒸留所で、グレンモア社、1991年にユナイテッド・ディスティラーズ社、1995年からはバートン・ブランズ社が生産しています。
 ブランドネームは、20世紀の初めごろにグレンモア蒸留所を創業者のモナーク家から買いとった、ウイスキーの卸商のジェイムズ・トンプソンに因んでいます。
 
 もちろん、スペンサーが放言しているほど不味いわけはないですよ。でも、アメリカン・ブレンディッドを飲むならセブン・クラウンで十分、といったたぐいのウイスキーです。

シリーズ・リスト

「ゴッドウルフの行方」 ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1976
「誘 拐」 立風書房 1980
「失 投」 立風書房 1977
「約束の地」 早川書房 1978
「ユダの山羊」 早川書房 1979
「レイチェル・ウォレスを捜せ」 早川書房 1981
「初 秋」 早川書房 1982
「残酷な土地」 早川書房 1983
「儀 式」 早川書房 1984
「拡がる環」 早川書房 1984
「告 別」 早川書房 1985
「キャッツキルの鷲」早川書房 1986
「海馬を馴らす」 早川書房 1987
「蒼ざめた王たち」 早川書房 1988
「真紅の歓び」 早川書房 1989
「プレイメイツ」 早川書房 1990
「スターダスト」 早川書房 1991
「晩 秋」 早川書房 1992
「ダブル・デュースの対決」 早川書房 1993
「ペイパー・ドール」 早川書房 1994
「歩く影」 早川書房 1994
「虚 空」 早川書房 1995
「チャンス」 早川書房 1996
「悪 党」 早川書房 1997
「突然の災禍」 早川書房 1998
「沈 黙」 早川書房 1999
「ハガーマガーを守れ」 早川書房 2000
「ポットショットの銃弾」 早川書房 2001
「笑う未亡人」 早川書房 2002
「真 相」 早川書房 2003
「背 信」 早川書房 2004
「冷たい銃声」 早川書房 2005
「スクール・デイズ」 早川書房 2006
「ドリームガール」 早川書房 2007
「昔 日」 早川書房 2008