2009年05月25日
晩餐の誓い

弟のスコットは、なぜ酒びたりとなり、自動車事故でその一生を終えることになったのか? 理想に燃えた青年は、いつ人生に幻滅して破滅への道を歩みはじめたのか。
グラスゴウ警察のレイドロウ警部はその答えを探すため、休暇をとってスコットが教師をしていたグレイスノックへ向かった。だが、まわりの人間に話を聞けば聞くほど、謎は深まるばかりだった。友人宅でひらかれたパーティーをいきなりぶち壊しにしたのはなぜか? 死の直前に酒場で漏らした「緑色のコートを着た男がまた死んだ」という言葉の意味は?
レイドロウ警部は、スコットがレオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』を模して描いた絵のなかに手がかりらしきものを見つけたが……。
裏表紙ストーリー紹介より
部屋に入ると、わたしはスコットの絵を包みから出して、壁に立てかけ、服をぬいでベッドに腰掛け、『スコットランド』のその画像を眺めた。ウィスキーの蓋をあけた。そうして芸術と心をかよわせ合い、昔の頃を想い出しながら、アンティクエアリーと長い対話をした。アンティクエアリーには「古代のもの」という意味もあるのだ。しばらくそうしていてから、明かりを消して寝た。
英国ミステリーの最高権威、英国推理作家協会のゴールド・ダガー賞に次ぐシルバー・ダガー賞を、「夜を深く葬れ」と「レイドロウの怒り」で連続して受賞し、ロス・マクドナルドが絶賛したのが、ウィリアム・マッキルヴァニーのグラスゴー警察のジャック・レイドロウ警部のシリーズです。

ホープ・ストリートのはずれで、<トップ・スポット>は左右ふたつの入口にわかれている。レイドロウは左側のパブリック・バーにはいっていった。そこは警察官がよく利用する小さな酒場。戸口の横は、カウンターからのびた幅数フィートの仕切り板によって隔離され、個室みたいになっている。レイドロウはみんなとワイワイやりたくなかったので、そのなかに腰をおちつけることにした。いまは鎮痛剤が必要なのだ。
「アンティクァリーと半パイントのビール」
どの作品も切り口がいいし、霧雨のなかに佇む男を描いた木炭画のような筆遣いは、ミステリーとしての面白さはむろんのこと、ありきたりの勧善懲悪の物語にはない、静かな感動を与えてくれます。ただ、私小説的な文体は、ペースに乗るまでは読みづらいですね。

レイドロウがボブのウィスキーとハークネスのラガー・ビールを持って戻って来た。自分用としてはアンティクウェリ・ウィスキーのダブルを盆の上にのせていた。
レイドロウはブレンディッド・スコッチのアンティクアリーを愛飲していますが、「夜を深く葬れ」ではアンティクァリー、「レイドロウの怒り」ではアンティクウェリ、「晩餐の誓い」ではアンティクエアリーと、3作とも日本語の表現が異なっています。いずれ取り上げるつもりのギャビン・ライアルの「もっとも危険なゲーム」も、アンティクェリと、これまた違います。
おそらく、このウイスキーがしばらく輸入されていなかったために、訳者が日本での呼びかたに疎かったからでしょう。
ウイスキー、とりわけシングルモルトは読みが定まっていない銘柄が多く、ベンリアックとベンロマック、グレンロッシーとグレンロッキー、オルトモアとオクトモアみたいに紛らわしい名前もあって、シングルモルトを覚えたてのころは苦労させられました。いまだに、グレンデベロンとグレンデブロン、セント・マグデランとセント・マグダレン、コネマラとカネマラなどは、どちらが一般的なのか分かりません。
シリーズ・リスト
「夜を深く葬れ」 ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1979
「レイドロウの怒り」 ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1985
「晩餐の誓い」 ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1994



