ウスケバ・ロゴ ウスケバ・ロゴ ウイスキー造りに欠かすことの出来ない「水」そして「樹」。自然の力が生み出す「生命の水」。

2009年05月04日

ゴッドウルフの行方
























 冬の到来を告げる最初の雪が降りはじめた。ボストンの灰色の十一月、それも午前三時に呼び出されるのは、けっして愉快なことじゃない。しかし、私立探偵スペンサーの耳には、救いを求めるテリーの電話の声がこびりついていた。奇妙にゆっくりした、まるで死の世界から聞こえてくるような声-スペンサー、テリーよ……助けて……!
 その日の朝、スペンサーは総長じきじきのお声がかりで、大学に呼ばれた。中世の貴重な文献として厳重に保管されていた“ゴッドウルフの写本”が盗まれ、犯人らしい男から、写本と引き換えに十万ドル要求された事件を調査してほしいという依頼だった。疑いは学内一過激なサークル、SCACEにかけられていた。スペンサーはまず、サークルの書記で、幹部のパーウェルと同棲しているテリー・オーチャードとの接触を開始した。そして、彼女と昼食をともにした日の深夜、テリーからの電話が彼を眠りから揺り起こした……。
 駆けつけたスペンサーが見たものは、胸を血に染め息絶えているパーウェルと、放心状態のテリー。そして床に発射されたばかりのテリーの拳銃-スペンサーは、自分が巻きこまれた殺人事件に、巧妙で、凶悪な罠の臭いを嗅ぎ取った!
裏表紙ストーリー紹介より

 女医が手当を終えると、看護婦が病棟のベッドへおれを運んでいった。赤ら顔の警官が一緒についてきた。彼の相棒は下にいてカークを待っている。病室は半分空いていて、がらんとしていた。
「朝までには一杯になるわ」看護婦が言った。彼女はクランクを回してベッドを起こし、赤ら顔の警官と二人でおれをベッドの上にのせた。
「先生が睡眠薬を注射するようにって言ってたわ」と彼女。
「そいつはまだだ」とおれ。「警官たちと話すまで待ってくれないか」
 赤ら顔の警官が、その通りなんだと看護婦にうなずいてみせた。
「オーケー」彼女は赤ら顔に言った。「あなたの仕事が終わったら、ここにいる看護婦に言ってくださいな。そうしたらわたしたちがここへ来て注射をしますから」彼女はそう言って出ていった。赤ら顔はベッドのそばに坐った。
「どんな感じだい?」彼が聞いた。
「キリンの脚でわき腹を蹴っとばされたような感じさ」
 彼はコートの中を手さぐりで探し、オールド・オーバーホルトの一パイント壜を取りだした。
「彼女が戻ってくる前に一杯やらないか?」
 おれはその壜を手にとった。
「ベッドをあげてくれ」とおれ。彼がクランクを回してベッドの頭の方をあげてくれたので、おれはなかば坐ったような姿勢になった。それで半分ほど飲んでしまった。
 おれはその壜を返した。彼は長い間に身についてしまった手なれた格好で、無意識に手で壜の口をふき、ぐっと飲んだ。彼がその壜をまたおれによこした。
「空けてしまえよ」と彼。「もう一本車の中にあるんだ」


 偉大なるマンネリズム、ロバート・B・パーカーのスペンサー・シリーズの記念すべき第1作です。

 二十年ぶりに再読しましたが、記憶していたよりも面白かったですね。ポケミス版の訳者は菊池光氏ではないのでちょっと雰囲気が違うけれど、スーザンとホークが登場しないほかは、クワークとベルソンのコンビ、ヴィンス・ハラー、ジョー・ブロスといった顔馴染みのキャラクターが揃っているし、スーザンとホークがいないぶん、むしろまともな探偵小説になっています。
 いかに二人が必要悪なのかがよく分かりました。

 アメリカにおけるオーヴァーホルト家の始祖は、1730年代に多くの同胞とともにドイツのラインラント地方から新大陸に渡ったと伝えられています。その孫にあたるエイブラハムが、ペンシルヴァニア州のウェストモーランド郡で、1810年にもっぱらウイスキー造りに励むようになります。ラベルに描かれた人物がエイブラハムです。
 エイブラハムが亡くなったあとも、息子のジェイコブや従兄弟のヘンリーらオーヴァーホルト一族によって、蒸留所の経営は続けられていたものの、禁酒法と大恐慌が経営を圧迫したために、蒸留所とオールド・オーヴァーホルトのライセンスはナショナル・ディスティラーズ社に売却されました。
 ナショナル・ディスティラーズ社は、ケンタッキー州フランクフォートのオールド・グランダッド蒸留所にラインを移し、現在はジム・ビーム・ブランズ社がクレアモント蒸留所で生産しています。
 ライ麦の割合が59パーセントを占める、4年物のストレート・ライ・ウイスキーで、マイケル・ジャクソン氏は、「流転の歴史を背負っているにもかかわらず、生来のキャラクターを失っていない。それは、ほかのライ・ウイスキーよりもライ麦が多く含まれているためだろう」と、ジム・マーレー氏は、「クリーミーな香りと味わい。ジム・ビームのライとはかなりキャラクターが異なる」と評しています。

シリーズ・リスト

「ゴッドウルフの行方」 ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1976
「誘 拐」 立風書房 1980
「失 投」 立風書房 1977
「約束の地」 早川書房 1978
「ユダの山羊」 早川書房 1979
「レイチェル・ウォレスを捜せ」 早川書房 1981
「初 秋」 早川書房 1982
「残酷な土地」 早川書房 1983
「儀 式」 早川書房 1984
「拡がる環」 早川書房 1984
「告 別」 早川書房 1985
「キャッツキルの鷲」早川書房 1986
「海馬を馴らす」 早川書房 1987
「蒼ざめた王たち」 早川書房 1988
「真紅の歓び」 早川書房 1989
「プレイメイツ」 早川書房 1990
「スターダスト」 早川書房 1991
「晩 秋」 早川書房 1992
「ダブル・デュースの対決」 早川書房 1993
「ペイパー・ドール」 早川書房 1994
「歩く影」 早川書房 1994
「虚 空」 早川書房 1995
「チャンス」 早川書房 1996
「悪 党」 早川書房 1997
「突然の災禍」 早川書房 1998
「沈 黙」 早川書房 1999
「ハガーマガーを守れ」 早川書房 2000
「ポットショットの銃弾」 早川書房 2001
「笑う未亡人」 早川書房 2002
「真 相」 早川書房 2003
「背 信」 早川書房 2004
「冷たい銃声」 早川書房 2005
「スクール・デイズ」 早川書房 2006
「ドリームガール」 早川書房 2007
「昔 日」 早川書房 2008