ウスケバ・ロゴ ウスケバ・ロゴ ウイスキー造りに欠かすことの出来ない「水」そして「樹」。自然の力が生み出す「生命の水」。

2010年01月19日

雪 殺人事件



















 日系アメリカ人のレイ・シムラは東京で働く英語教師。正月休みの旅先で、同宿のサラリーマンの妻が殺された。誤認逮捕された弁護士と共に犯人を追うレイに魔の手が迫り、第二の殺人が。

カヴァーあらすじより

 日本人とアメリカ人のハーフで日本で暮らすレイ・シムラが、次つぎと殺人事件に出くわすシリーズの第1作です。

 1989年の三菱地所のロックフェラー・センター・ビル、ソニーのコロンビア映画、1990年の松下電器のMCAの買収と、日本がバブルに奢っていた当時、海外からの風当たりは強く、小説の世界でも、1993年のマイクル・クライトンの「ライジング・サン」と翌年のトム・クランシーの「日米開戦」あたりで、イエローペリル的な対日観がピークに達しました。
 それから10年が過ぎ、ようやくネガティヴなフィルターを通していない、日本人の登場する、あるいは日本を舞台にしたミステリーをぽつぽつと見かけるようになりました。以前、取り上げたバリー・アイスラーのジョン・レイン・シリーズがそうですし、このレイ・シムラのシリーズもそうです。ほかにも、スザンナ・ジョーンズの「アースクエイク・バード」という、いっぷう変わったタッチの作品もあり、いずれも本国で高い評価を得ています。
 こと国家の好感度に関しては、「失われた10年」も負の側面ばかりではなかったのかなと思います。





















 とはいえ、読んでいてどこか居心地の悪さを感じ、ストーリーに集中できないので、いまもって苦手なジャンルではあります。

 数分後にダイニングに戻ると、二人はテーブルに向かい合って座っていた。スコッチのボトルがテーブルにのせてある。
「キャデンヘッズだ。シングル・モルトはこれにかぎるよ。一度飲んでごらん」ヒューが私にグラスを差し出した。


 主人公が恋人のスコットランド人にケイデンヘッドを勧められる場面です。

 興味深いことに、作家の滞在経験によるものなのか、日本を舞台にした海外ミステリーには決まっていいウイスキーが出てきます。喜ぶべきなのかもしれないけれど、ただし、国産のウイスキーについては、知る限りいまひとつの扱いですね。
 日本のイメージが好転したように、いつかは、ニッカとサントリーを大いに誉めた一節を目にするかもしれません。気長に待つとしましょうか。



 ウィリアム・ケイデンヘッド社は、ワイン商のジョージ・ダンカンが1842年にアバディーン市内のネザーカークゲイトで創業しました。
 ダンカンが1858年に他界すると、1853年から経営に加わっていた、義弟のウィリアム・ケイデンヘッドが事業を受け継ぎます。彼は半世紀にわたって、おもにモルト・ウイスキーとラムの販売を手がけました。
 船乗りの多いアバディーンでは、ウイスキーよりも、やはりラムが好まれたようで、同社がラムに強いのはそれゆえの伝統でしょう。
 ウィリアムが1904年に亡くなったあとも、ウィリアムの甥のロバート・デュティが、オリジナル・ブランドのウイスキーを発売したり、劇場の緞帳やコンサート・プログラムに広告を出すなどして売り上げを伸ばしました。
 しかし、1929年に世界を襲った大恐慌は、ケイデンヘッド社も苦境に追いこみます。1931年にロバートは路面電車に轢かれて落命しましたが、金策のためか、銀行の頭取に面会する道中だったそうです。
 商才に長けた主人を失ったケイデンヘッド社は、娘のアン・オリバーの努力によって40年のあいだ維持されたものの、1972年に清算され、キャンベルタウンのJ&A・ミッチェル社が買い取りました。

 スコットランドでもっとも伝統を誇るマーチャント・ボトラーだけに、そのストックはほかを圧倒しており、シグナトリー、キングズバリー、サマローリといった新興の同業者、そして、SMWSにも樽を供給しています。



 ところで、ウスケバのブロガーさんが好きな音楽をアップされているので、ぼくも真似ることにしました。色気のないブログなので女性ボーカリストをメインに、記事に合わせて更新していくつもりです。右サイドバーのトップにリンクしています。
 お暇なら聴いてよね。

シリーズリスト  

Posted by THE WHISKEY at 20:30Comments(4)TrackBack(0)ケイデンヘッド

2009年04月04日

チャイナマン




















 ロンドンで中華料理店を経営するニューエン・ニョク・ミンは、どう見ても風采の上がらない東洋人。だが最愛の家族を爆弾テロで失うと、彼は心に復讐を誓った。警察、新聞記者、代議士の元へ足を運び続け、遂に犯行の秘密を知る大物政治家にたどり着くと、ヴェトコンの優秀なゲリラ兵だった彼はあらゆる手を尽くして犯人を追い詰める。果たして復讐は完遂するのか?

裏表紙ストーリー紹介より

 ニューエンは主人に取り入ろうとする召使のように笑顔をこしらえていた。服は清潔だが、みすぼらしくて、まるでそれを着たまま寝ているように見えたし、髪は真っ直ぐに垂れて、櫛が入ってなかった。テーブルの上で握り合わせた手は皺が寄り、しかし爪はちゃんとつんであった。警察暮らし二十年のブロムリーは一瞥で人物を見抜くすべを習得しているが、ニューエンに関しては糸口もつかめなかった。たぶん相手が東洋人だからだろう。だがいくつかの点は明らかだった。ニューエンは裕福ではなく、辛い労働と重い責任に慣れた男のようだった。それに、苦しんでいる様子もうかがえたが、もちろんそのくらいのことは、シャーロック・ホームズたらずとも推理できた。ニューエンの英語はまずまず流暢だが、言葉の選択には骨を折っていたし、どことなくアメリカ式のアクセントがあった。正直で率直そうで、いまもブロムリーの目を真っ直ぐに見て、相手が口を開くのを待っていた。

 臆病で非力にしか見えない東洋人が、じつはゲリラ戦に長けた元ベトナム軍の精兵で、爆弾、接近戦を交えながら仇敵を追いつめてゆく。
 アメリカかオーストラリアあたりでなら成り立ちそうなストーリーですが、舞台を遠くアイルランド、しかも、北アイルランド紛争という、白人同士の争いの渦中においたところが、この作品の着目のよさです。そして、無縁の人間の目線を通してアイロニカルに描くことで、北アイルランド紛争の不毛さを際立たせています。 

「いらっしゃい」とバーメイドが言った。彼女はビールを注ぎ終えると、薄汚れたタータンの帽子をかぶった老人に渡した。「はい、アーチー」
 そのパブはスコットランドとアイルランドじゅうのあらゆる農村にある店と似たりよったりで、客は全員互いに顔見知り、よそ者は敵意すれすれの猜疑心で見られた。店は大きな部屋一室で、歳月によって滑らかに擦り減らされた木のテーブルが四つ五つ、壁際に並び、炉の両側にベンチが一個ずつ置いてあった。炉は火が入ってないが、黒くなった鉄の火格子には、乱暴にぶった切られた丸太が二本載っていた。カウンターは壁と平行に部屋の端から端まで伸び、そのうしろのドアは主人の住まいに通じているらしい。部屋の壁はもともと白く塗られていたのが、長年タバコやパイプの煙と炉の火にいぶされて、いまは濃い黄色だった。床は石で、テーブルの下にはとうに色褪せた赤と青の模様の、四角い大きなカーペットが敷いてあった。カウンターのうしろの台にはモルト・ウイスキーがずらりと並んでおり、多くが単純な黒いラベルに白い文字で醸造元の名を浮き上がらせていた。
「何になさいます?」とバーメイドがきき、モリソンはアイレー島のモルト・ウイスキーを指差した。
 彼は香りをゆっくり嗅いでからその濃い琥珀色の液体をすすった。
「どう?」とバーメイドはきき、白い布巾でグラスを拭きはじめた。
「魔法だ」と彼は言った。


 単純な黒いラベルに白い文字で醸造元の名を浮き上がらせているボトル、といえば、マディラでなければ、ケイデンヘッドに間違いないでしょう。男が注文したのは、おそらくボウモアか、ポート・エレンだと思います。

 若いころ、ふらりと入ったバーで、バックバーに黒光りするボトルが並んでいるのを見かけると、気圧されるような迫力を感じました。ロゴタイプにしろ、最近のケイデンヘッドやソサエティのボトルのデザインに比べて垢抜けてはいませんが、ボトラーズが珍しい時代だっただけに、堂々とした存在感があったし、好みかどうかはさておき、飲んだときの感動も大きかったですね。

 ウィリアム・ケイデンヘッド社については、ほかにも登場するミステリーがあるので、そのときに詳しくふれるつもりです。  

Posted by THE WHISKEY at 14:00Comments(2)TrackBack(0)ケイデンヘッド