ウスケバ・ロゴ ウスケバ・ロゴ ウイスキー造りに欠かすことの出来ない「水」そして「樹」。自然の力が生み出す「生命の水」。

2009年03月29日

殺人のすすめ
























 巨大なシャベル付きのクレーン車は大学の一画を占める美しい庭園にはいかにも似合わなかった。生えそろった芝生を掘りかえしながら進み、怪物の口のような掴み器が今はずされたばかりのブロンズの裸身像の台座を呑む。五年前にオーストリアで行方不明になった前学長ミズ・ガーリングを記念したものだった。多くの教職員と学生が見守るなか、クレーンは台座を引きあげた……そのとき、土くれとともに落ちてきたものがあった。そのひとつが何かに気づいた見物人から絶叫があがった。地上に落ちたそれは、虚ろな目で歯をむいて笑う頭蓋骨だった!
 ホーム・コールトラム学芸大学には、白骨死体などなくても充分すぎる問題があった。学校の拡張計画、講師と女子学生のスキャンダル、そして自治会長フラニー・ルートを中心とした学生たちの反抗と道徳的退廃。大学出のパスコー部長刑事ならいざしらず、ダルジール警視には納得できなかった。知性の象徴たる大学の内実がこのようなものだとは。だが、やがてスキャンダルの渦中にあった女子学生の死体が発見されると、埋められた白骨の謎はふたたび現在に蘇り、ダルジールの推理で白日のもとにさらけだされることになった!
裏表紙ストーリー紹介より

 ユーモア、風刺精神、官能主義といった英国ミステリーの妙味が、ダルジールとパスコー、ウィールドのおもなキャストの三人よろしく、「聖三位一体」となった大人のためのエンターテイメントが、レジナルド・ヒルのダルジール警視のシリーズです。
 周りを圧する巨体とそれ以上に大きな態度で遮るものをなぎ倒しながら突き進む、部下のパスコーいわく、「主として敵意をてこにして仕事を進める男」のダルジールは、現実に身近にいたら辟易してしまう人物でしょう。でも、傍観者の立場で眺めているだけならじつに痛快です。

 憂うつそうに警視は机の抽出しからスコッチのびんとグラスを二箇取りだした。両方のグラスにウィスキーを満たすと彼はその一つをパスコーのほうに押しやった。パスコーは静かにグラスをとると唇に運んだ。

 そんなダルジールも、パスコーの能力は渋々ながらも認めていて、ごくまれに親愛の情を見せています。その心の機微の描写が読んでいて楽しいです。

 ダルジールは自分のグラスにまたウィスキーをついだがパスコーには二杯目をすすめなかった。モルト百パーセントのグレン・グラントだ、無駄には使えない。

 マイケル・ジャクソン氏のモルトウイスキー・コンパニオンによれば、「シングルモルトがハイランド地方以外ではほとんど知られていなかった時代、グラスゴーから南米のギニアに至る数多くのバーで、唯一出されるシングルモルトであった」グレン・グラントだけに、40年もまえに発表された本作にもさりげなく登場しています。
 今日でも販売量は多く、とくに、イタリアで5年ものの人気が高いそうです。これは青臭い風味がグラッパに似ていて、彼らにとって親しみやすいからだといわれています。
 ただ、最近でこそバリエーションが充実してはいるものの、凡庸なシングルモルトのイメージは否めず、ダルジールが相手ではやや個性に欠けるようにも思えます。しかし、叩き上げでそれなりの地位に就いたクラスがたしかに選びそうな銘柄で、むしろリアリティを感じますね。
 ありえない物語に真実味を足すためのちょっとした加筆が、この作家の上手いところです。

シリーズ・リスト

「社交好きの女」 ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1982
「殺人のすすめ」 ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1980
「秘められた感情」 ハヤカワ文庫 1996
「四月の屍衣」 ハヤカワ文庫 1997
「薔薇は死を夢見る」 ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1985
「死にぎわの台詞」 ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1988
「子供の悪戯」 ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1989
「闇の淵」 ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1991
「骨と沈黙」 ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1992
「甦った女」 ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1997
「完璧な絵画」 ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1998
「幻の森」 ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1998
「ベウラの頂」 ハヤカワ・ポケット・ミステリ 2000
「武器と女たち」 ハヤカワ・ポケット・ミステリ 2001
「死者との対話」 ハヤカワ・ポケット・ミステリ 2003
「死の笑話集」 ハヤカワ・ポケット・ミステリ 2004
「真夜中への挨拶」 ハヤカワ・ポケット・ミステリ 2006
「パスコーの幽霊」 ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1983 短編集
「ソ連に幽霊は存在しない」 ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1990 短編集
「ダルジール警部と四つの謎」 ハヤカワ文庫 1997 短編集
「最低の犯罪」 光文社文庫 2000 短編集  

Posted by THE WHISKEY at 18:00Comments(0)TrackBack(0)グレン・グラント