ウスケバ・ロゴ ウスケバ・ロゴ ウイスキー造りに欠かすことの出来ない「水」そして「樹」。自然の力が生み出す「生命の水」。

2009年05月10日

四つの雨




















 夢やぶれた心理療法士ボブ・ウェルズは、50歳を越えた今、妻に逃げられ、酒に溺れ、独り極貧にあえいでいた。しかし、ジェシーとの出会いがすべてを変えた。美しく、愛らしく、自分と同じく苦労を重ねた女性。彼女と一緒に幸せになりたい。その一心で、ボブは患者の美術商が持つ貴重な古美術を盗み、転売しようともくろむが……
裏表紙ストーリー紹介より

 デイヴはもうすでに酔っぱらっていて、五杯目のエヴァン・ウィリアムスを飲んでいるところだった。「もしかしたら、おれは世界でいちばん年寄りの裏方かもしれんな」
「と同時に、世界でいちばん優秀な裏方でもある」ボブが答えた。


 あとがきによると、ジェイムズ・クラムリー、マイクル・コナリー、ジョージ・ペレケーノス、T・ジェファーソン・パーカー、ロバート・クレイスといった、名だたるハードボイルド作家が本作に賛辞を寄せています。
 たしかに、主人公の心理描写には息詰まるほどの迫力があります。でも、一度読めばもう十分です。

 冒頭、主人公は、深夜の街角で騒いでいた顔見知りのホームレスを助けようとします。しかし、アルコールで正気を失っていた相手に股間を蹴られて、氷雨の降るなか路上で悶絶します。
 いきなり暗鬱な気分にさせられ、あとは人生の敗者が追いつめられていくさまを眺めるばかりで、映画でいえば、「リーヴィング・ラスベガス」や「ミリオンダラー・ベイビー」はいい作品だけれど、何度も観たいとは思わない、そんな印象でしょうか。

 エヴァン・ウィリアムスが登場するミステリーは珍しいので取り上げましたが、ノワール小説のファンでもないかぎり、ぜひにと勧めたい一冊ではありません。

 1896年に編纂されたメモリアル・ヒストリー・オブ・ルイヴィルのなかに、「1783年、エヴァン・ウイリアムスが、ルイヴィル市内を流れるオハイオ川の河岸に小さな蒸留所を建て、トウモロコシを原料にウイスキーを造った。それは悪寒や発熱に薬効があると酒飲みは考えた」との一節があり、1892年に発行されたセンテナリー・オブ・ケンタッキーにも、「ルイヴィルで初めて造られたウイスキー。おそらくケンタッキーでも最初であろう」と記されています。
 エヴァン・ウイリアムスは、オハイオ川を管理していた役人で、地元の殖産のためにルイヴィルに蒸留所を建設したと伝えられています。さらにさかのぼれば、1705年に英国のウェールズで最初の商業的な蒸留所を創業した人物も、同名のエヴァン・ウイリアムスでした。
 ウイリアムスの事業は成功せず、20年ほどで廃業したようです。しかし、今日、エライジャ・クレイグとともに「バーボンの父」と呼ばれており、このバーボンも、ケンタッキーで最初のディスティラーを謳っています。

 ヘヴン・ヒル社が1957年に発売した、ヘヴン・ヒルと並び同社を代表する銘柄で、スタンダードの5年のほか多くのバリエーションがあり、とくに日本限定の23年は、プレミアム・バーボンの頂点に位置づけられています。




















 また、ヘヴン・ヒル社は、エヴァン・ウイリアムスに続き、ジョン・ハミルトン、ダニエル・スチュアート、エライジャ・クレイグなど、バーボンのパイオニアとされる人物に因んだ銘柄を、1980年代にラインアップに加えています。

















 ただ、どれもかなり曖昧な記録に頼っていて、たとえばダニエル・スチュアートは、1787年にアパラチア山脈より以西で初めて刊行された新聞、ケンタッキー・ガゼット紙に、2年後の1789年6月28日に彼が出した、「容量が120ガロンの蒸留器と、状態のよい白目と銅製の冷却器を売りたし」との短い広告だけで、蒸留していたのがウイスキーなのかどうかも定かでないのに、バーボンの聖人に列せられているぐらいです。
 そのあたりの適当さは、ブランドだけが売り買いされる、いわゆるチェーン・ラベルが多いアメリカならではでしょう。