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2008年11月29日

密造人の娘




















 ノース・カロライナ州の田舎町を舞台に、女性判事のデボラ・ノットが活躍するシリーズの第1作です。

 18年前、母親の死体のそばで泣き声を上げる乳児が発見されます。時は流れ、事件の真相を知ろうと、成長した娘がデボラに助力を求めてきます。しかし、危険な罠が彼女たちを待ち受けていたのでした。

 いかにもサザン・ベルらしい、ミステリーのヒロインのなかでも魅力的なキャラクターです。ノース・カロライナの大地と、そこに根づく人びとを愛情をもって描いた、軽妙で繊細な文体にも好感がもてます。

 タイトル通り、デボラの父親はかつて大物の密造人でした。法を司る立場の娘にとっては厄介な存在だけれど、第4作の「悪魔の待ち伏せ」では、密造酒を運んでいた廃車が彼女の命を救うことになります。

 訳者の高瀬素子氏のあとがきに、密造酒についての興味深い一節があるので紹介しましょう。

「この父親が手を染めていた密造酒の売買というのは日本ではあまりなじみがないが、作者が生まれ育ったノース・カロライナ州あたりでは、ごく身近な話のようだ。最近でも珍しいことではないらしく、≪ミステリ・シーン≫誌に掲載された自作を語るエッセイの中でも、数年前に近所で密造酒造りが発覚した話に触れている。その家の裏の森が火事になったのだが、家の主人は頑として消防隊員を森の中へ入れようとしなかった。森を焼けるがままに放置しておいてでも、人には見せられないものがあったということだ。」

 たしかに、密造酒造りはアメリカの南部でとくに盛んなようで、アメリカ財務省が管轄するATF、アルコール・タバコ・火器取締局、による摘発も多いです。理由のひとつに、南北戦争のあと体制を牛耳ったヤンキー、北部人への反感が、いまだにくすぶっているみたいです。

 リードがヒントを与えて記憶を呼び起こしてやると、ギルクリストは、食料貯蔵用の広口びんにジョージア・ムーン・コーン・ウイスキーを指二本幅分注ぎ、蜂蜜とレモン・ジュースを加えたと述べた(彼が買ったのが、ジョージ・ディックルかジム・ビームといった、酔っ払いのイメージが薄い銘柄のウイスキーでなかったのは運が悪い)。

 本作では、デボラはまだ弁護士で、彼女が立ち会った飲酒運転の裁判の被告人の陳述に、コーン・ウイスキーのジョージア・ムーンが出てきます。

 ジョージア・ムーンは、バートン・ブランズ社がジョージア州オルバニーのヴァイキング蒸留所で生産している、熟成が30日と短いコーン・ウイスキーです。
 ブルー・グラスのスタンダード・ナンバー、「ケンタッキーの青い月」をイメージさせる洒落たネーミングですが、ムーンシャインの意味合いと、ジョージア州で月齢に近い日数で造っているという理由で名づけられたのでしょう。
 日本にも80プルーフと100プルーフのラインナップが輸入されていて、フルーツ瓶みたいなオールド・スタイルのボトルをバーで見かけたかたもいらっしゃると思います。
 注ぎにくくてバーテンダー泣かせのボトルなんですよね。ぼくはかき氷のシロップ用のレーデルを、わざわざジョージア・ムーンのためだけに用意していました。

 酔っ払いのイメージかどうかはさておき、ジョージア・ムーンに限らず、若いコーン・ウイスキーはバックバーの肥やしになりがちです。でも、寒い季節には蜂蜜とレモンをたっぷり加えてホット・トディにすると、なるほど美味しいかもしれません。

シリーズ・リスト

「密造人の娘」 ハヤカワ・ミステリアス・プレス文庫 1995
「甘美な毒」 ハヤカワ・ミステリアス・プレス文庫 1996
「砂州の死体」 ハヤカワ・ミステリアス・プレス文庫 1997
「悪魔の待ち伏せ」 ハヤカワ・ミステリアス・プレス文庫 1998

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この記事へのコメント
これ面白そうですねえ
今度探してみよう
ところで、バーにずらりと並ぶバックボトル あれ、僕みたいなウイスキーに詳しくないお客からは結構脅威なんですよう
だからどうしてもメジャーないつも呑んでいる銘柄をついつい注文してしまうんですよねえ・・・
『レモンハート』やらそれこそ小説やらにでてきた銘柄なんかは非常に美味しそうで、一遍頼んでみたいなあと思うんですがそれに対する知識がないんで『呑み方はいかがされますか?』なんて言われるとドキドキしますよ
Posted by あっきー at 2008年12月01日 22:47
>あっきーさん

ぼくもバーで飲む銘柄は決まっています。だいたい3種類ぐらい。酒はバーで楽しむうえでの媒体に過ぎませんから、それでいいと思っています。
モルト愛好家の皆さんの埒外にある存在でしょうね。
Posted by THE WHISKEY at 2008年12月04日 16:45